「市長となって、自分だけの街を作る」。ただそれだけのことが、なぜこれほどまでに面白いのか。
1989年、ウィル・ライトという天才によって生み出された『シムシティ』は、「明確な終わりのないゲーム(ソフトウェア・トイ)」という新しい概念を世界に提示した。住宅地・商業地・工業地を区画整理し、発電所を建て、電線を引く。住民の不満を聞き、時には怪獣や竜巻といった災害で街を破壊する。「創造」と「破壊」の神になれるこのゲームは、PCゲーマーだけでなく、スーパーファミコン版を通じて日本のお茶の間にも深く浸透した。
シリーズは『2000』『3000』『4』と進化を続け、都市シミュレーションの絶対王者として君臨したが、2013年のリブート作での躓きや、ライバル『Cities: Skylines』の台頭など、その道のりは決して平坦ではなかった。本記事では、都市開発ゲームの代名詞である『シムシティ』シリーズの歴史を、家庭用移植版やモバイル版も含めて総力解説する。
シリーズ基礎データ
『シムシティ』(SimCity)は、マクシス(現在はエレクトロニック・アーツ傘下)が開発する都市経営シミュレーションゲームシリーズ。第1作は1989年にPCで発売。プレイヤーは市長となり、インフラ整備、税率調整、条例制定などを行い、人口を増やして巨大都市(メガロポリス)を目指す。日本では1991年のスーパーファミコン版(任天堂発売)が任天堂独自の味付けで大ヒットし、知名度を確立した。派生作品として人生シミュレーションの『ザ・シムズ』があり、そちらも世界的ヒットを記録している。
歴代主要作品一覧
各タイトルをクリックすると、詳細解説へジャンプします。
※売上は世界累計(リメイク・移植版を含まないオリジナル版の概算データ)を参照。
| No | 発売日 | タイトル | 売上本数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 1989/2/2 | シムシティ (PC/SFC) | 約500万本 |
| 2 | 1993/9/30 | シムシティ2000 | 約340万本 |
| 3 | 1996/7/26 | シムシティJr. | 不明 |
| 4 | 1999/1/31 | シムシティ3000 | 約500万本 |
| 5 | 2003/1/14 | シムシティ4 | 不明(大ヒット) |
| 6 | 2007/2/22 | シムシティDS | 不明 |
| 7 | 2008/3/19 | シムシティDS2 〜古代から未来へ続くまち〜 | 不明 |
| 8 | 2013/3/5 | シムシティ (2013) | 200万本以上 |
第1期:都市育成シムの誕生と任天堂アレンジ(1989-1998)
1989年、マクシスのウィル・ライトが開発した初代『シムシティ』は、当時のゲーム業界に衝撃を与えた。敵を倒すわけでもなく、明確なエンディングもない。ただひたすらに、住宅・商業・工業のバランスを取りながら街を広げていく。この「箱庭遊び」の概念は、後のゲームデザインに多大な影響を与えた。
日本では1991年に任天堂がスーパーファミコン版を発売。宮本茂氏の監修により、助言役の「Dr.ライト」や、災害として「クッパ」が登場するなど、親しみやすいアレンジが施されたことで大ヒットを記録した。続く『シムシティ2000』では、視点が真上から斜め見下ろし(クォータービュー)になり、高低差や地下鉄の概念が登場。アルコロジー(巨大環境都市)というSF要素も加わり、シリーズの黄金期を築き上げた。
No.1 シムシティ (PC/SFC)

| 発売日 | 1989年(PC) 1991年4月26日(SFC) |
|---|---|
| 開発 | Maxis / 任天堂情報開発本部 |
| 発売 | Maxis / 任天堂 |
| 売上本数 | 約500万本(全機種計) |
| 対応ハード | PC / スーパーファミコン 他 |
| プロデューサー | 宮本茂(SFC版) |
| ディレクター | 手塚卓志(SFC版) |
| デザイナー | ウィル・ライト |
| サウンド | 岡素世(SFC版) |
【概要】
「市長になって街を作る」というジャンルを確立した記念碑的作品。真上からの視点で、住宅・商業・工業の3種類の地区を指定し、発電所を建て、送電線を引き、道路を敷設する。人口が増えれば税収も増えるが、同時に犯罪や公害、交通渋滞といった都市問題も発生する。日本では任天堂がSFCローンチ時期に発売し、独自のキャラ(Dr.ライト)や、季節の変化、人口50万人達成時のマリオ像プレゼントなどの要素を追加して大ヒットした。BGMの評価も非常に高く、今なおアレンジされ続けている。
【あらすじ(プレイ体験)】
何もない平原に、最初の発電所を建設する瞬間。それが全ての始まりだ。道路を引き、区画を指定すると、小さな家や店が建ち始める。「もっと住宅地が必要じゃ!」とアドバイザーに急かされ、森を切り開いて団地を作る。人口が増えてくると、今度は渋滞や公害が発生。鉄道を敷き、公園を作って対応する。時にはゴジラのような怪獣(SFC版ではクッパ)が現れて街を蹂躙することもあるが、それすらも都市の歴史の一部だ。目指せ、人口50万人のメガロポリス!
1991年の日本はバブル崩壊の直後であり、現実社会では地価の下落や景気後退が始まっていた。そんな中、ゲームの中で自分の理想の都市を自由に建設できる『シムシティ』は、ある種の夢や憧れを提供したのかもしれない。また、スーパーファミコンが発売されて間もない時期であり、「アクションやRPG以外にもこんな面白いゲームがある」と、ゲームの多様性を世間に知らしめた意義も大きい。
No.2 シムシティ2000

| 発売日 | 1993年9月30日(PC) 1995年5月26日(SFC) |
|---|---|
| 開発 | Maxis |
| 発売 | Maxis / イマジニア 他 |
| 売上本数 | 約340万本 |
| 対応ハード | PC / SFC / PS / SS |
| ディレクター | フレッド・ハスラム |
| デザイナー | ウィル・ライト |
| サウンド | スー・カスパーク |
【概要】
「クォータービュー(斜め見下ろし視点)」を採用し、地形の高低差を表現できるようになった進化作。水道管の敷設、地下鉄の建設、教育・医療の充実など、管理すべき要素が大幅に増加し、よりリアルな市長体験が可能になった。未来の技術として、一つの巨大な建造物に数万人が住む「アルコロジー」が登場し、SF的なロマンも追加された。家庭用ゲーム機にも多数移植されたが、処理落ちやセーブ容量の問題に悩まされることも多かった。
【あらすじ(プレイ体験)】
山を切り崩し、谷を埋め立て、理想の地形を作ることから市長の仕事は始まる。ポンプ場を設置して水を通し、発電所を稼働させると、街に明かりが灯る。しかし、住民の要求はシビアだ。「学校が足りない」「病院が遠い」「税金が高い」。新聞記事で市民の声を確認し、条例を制定して支持率を維持する。資金難に陥り、禁断の「債権発行」に手を出すか悩む夜。そして未来、宇宙へ飛び立つアルコロジーを見送った時、市長としての責務は一つの到達点を迎える。
No.3 シムシティJr.

| 発売日 | 1996年7月26日 |
|---|---|
| 開発 | Maxis |
| 発売 | イマジニア |
| 売上本数 | 不明 |
| 対応ハード | スーパーファミコン |
【概要】
元々はPC用ソフト『SimTown(シムタウン)』として発売されたタイトルのSFC移植版。従来のシムシティが「都市」を扱うのに対し、本作はより小規模な「町」を対象としている。市長として道路を引くのではなく、住民一人ひとりの家を建てたり、ピザ屋やビデオ屋といった具体的な店舗を配置したりと、住民の生活に密着したマイクロな視点での街づくりが楽しめる。システムは簡略化されており、子供でも遊びやすい「シムシティ入門編」といった位置づけの作品。
【あらすじ(プレイ体験)】
空き地に一軒の家を建てる。すると、そこへ新しい家族が引っ越してくる。彼らの要望を聞きながら、職場を作り、遊び場を提供してあげる。住民たちはそれぞれ名前を持ち、毎日家と職場を行き来する様子を観察できるのが楽しい。「水が足りない」「木を植えてほしい」といったリクエストに応えながら、こぢんまりとした理想のコミュニティを作り上げていく。巨大都市の喧騒から離れた、アットホームな箱庭作り。
第2期:深化するシミュレーションと多様化(1999-2008)
Windows 95/98の普及により、PCゲーム市場が急速に拡大した時代。『シムシティ3000』は前作のシステムを正統進化させ、グラフィックの精細化とゴミ処理問題などの新要素を追加した。そして2003年、シリーズの頂点とも言える『シムシティ4』が登場する。地域全体の連携、昼夜の変化、さらに進化したグラフィック、そして有志によるMOD(改造データ)文化の開花。マシンスペックの向上と共に、都市づくりは無限の可能性を手に入れた。
一方、家庭用ゲーム機では、ニンテンドーDSやWii向けに独自の進化を遂げた『シムシティDS』や『クリエイター』が発売された。これらはタッチペン操作やキャラクター性を重視し、PC版とは異なるライトな層へのアプローチを行った。
No.4 シムシティ3000

| 発売日 | 1999年1月31日 |
|---|---|
| 開発 | Maxis |
| 発売 | Electronic Arts |
| 売上本数 | 約500万本 |
| 対応ハード | PC |
| プロデューサー | ルーシー・ブラッドショー |
| デザイナー | ウィル・ライト |
| サウンド | ジェリー・マーティン |
【概要】
『2000』のシステムをベースに、グラフィックを大幅に強化した作品。当初はフル3Dを目指していたが開発が難航し、最終的に2Dクォータービューの正統進化となった。「ゴミ処理」の概念が導入され、焼却炉やリサイクルセンターの建設が重要になったほか、近隣都市との電気・水・ゴミの取引が可能になった。アドバイザーたちが個性的なキャラクターになり、ニュースティッカー(画面下を流れるニュース)もユーモアたっぷりに進化。EA(エレクトロニック・アーツ)による買収後の最初のナンバリングでもある。
【あらすじ(プレイ体験)】
美しいグラフィックで描かれる街並み。歩行者や車が行き交う様子を眺めるだけでも楽しい。しかし、市長の仕事は現実的だ。ゴミ処理場が満杯になり、住民が「臭い!」と抗議デモを起こす。仕方なく隣町にゴミを引き取ってもらおうと交渉するが、足元を見られて高額な処理料をふっかけられる。財政難を解決するため、刑務所やカジノといった「迷惑施設」を誘致する誘惑に駆られる。清濁併せ呑む、政治的な判断が求められる大人のシムシティ。
1999年はWindows 98が普及し、インターネットが一般家庭に浸透し始めた時期である。PCゲーム市場も拡大し、『エイジ・オブ・エンパイア』などのRTSや『ウルティマオンライン』などのMMORPGが流行していた。一方で、日本の家庭用ゲーム機ではPlayStationが全盛期を迎えていたが、『シムシティ3000』はそのリッチな仕様ゆえに家庭用への移植が見送られ(後にDSなどで要素が引き継がれる)、PCゲーマーの特権的なタイトルとなっていた。
No.5 シムシティ4

| 発売日 | 2003年1月14日 |
|---|---|
| 開発 | Maxis |
| 発売 | Electronic Arts |
| 売上本数 | 大ヒット(詳細不明) |
| 対応ハード | PC |
| ディレクター | ジョセフ・ナイト |
| サウンド | ジェリー・マーティン |
【概要】
シリーズ最高傑作との呼び声高い作品。グラフィックがフル3D(描画は2Dベースだが建物等は3Dモデル)になり、夜景の描写も美しくなった。「地域(リージョン)」という概念が導入され、複数の都市マップを連携させて一つの巨大な経済圏を作ることが可能に。姉妹作『ザ・シムズ』のキャラを住まわせることもできた。拡張パック『ラッシュ・アワー』では交通機関が大幅に強化。MOD文化が最も栄えた作品であり、ユーザーの手によって無限に遊びが拡張され続けている。
【あらすじ(プレイ体験)】
神のモードで地形を隆起させ、山や川を作ることから天地創造は始まる。市長モードに切り替え、住宅地を指定し、時間を進める。今作ではシム(住民)の生活が細かくシミュレートされており、通勤時間の長さが発展のボトルネックになる。バス停を置き、鉄道を引き、高速道路を建設して渋滞を解消する。隣のマップに汚染産業を押し付け、こちらのマップはハイテク産業と高級住宅地で埋め尽くす…そんな「地域戦略」こそが、メガロポリスへの近道だ。
No.6 シムシティDS

| 発売日 | 2007年2月22日 |
|---|---|
| 開発 | EA / AKI |
| 発売 | EA |
| 売上本数 | 不明 |
| 対応ハード | ニンテンドーDS |
| プロデューサー | 村上貴宏 |
【概要】
『シムシティ3000』をベースに、ニンテンドーDS向けに大胆にアレンジされた作品。タッチペンによる直感的な操作が特徴で、道路の敷設や区画整理がスムーズに行える。最大の特徴は、プレイヤーをサポートする5人の個性的なアドバイザーたち。彼らとの会話イベントやミニゲーム要素、サンタクロースやUFOといったユニークな災害など、シリアスさを抑えた親しみやすい作りになっており、携帯機で手軽に遊べるシムシティとして人気を博した。
【あらすじ(プレイ体験)】
「触れるシムシティ」のキャッチコピー通り、タッチペンで街を直接いじる感覚が新鮮。火事が発生すればマイクに息を吹きかけて消火し、怪獣が現れればタッチして撃退するアクション要素も。日本風の城やお寺といった建物も建築可能で、自分好みの景観を作り込む楽しさがある。すれちがい通信で市民を交換するなど、DSならではの機能も盛り込まれている。
No.7 シムシティDS2 〜古代から未来へ続くまち〜

| 発売日 | 2008年3月19日 |
|---|---|
| 開発 | EA / AKI |
| 発売 | EA |
| 売上本数 | 不明 |
| 対応ハード | ニンテンドーDS |
【概要】
DS版の第2作だが、コンセプトは大きく変化。「時代」という要素が導入され、縄文時代のような古代からスタートし、現代、そして未来へと時代をまたいで都市を発展させていく。時代ごとに利用できる建物や抱える問題が異なり、例えば明治時代ならレンガ造りの建物、未来なら空飛ぶ車などが登場する。Wiiで発売された『シムシティ クリエイター』のDS版という側面も持ち、歴史ロマンあふれる街づくりが可能になった。
【あらすじ(プレイ体験)】
最初は竪穴式住居が並ぶ集落からスタート。狩猟や採集で食料を確保し、時代が進むと田畑を耕し、やがて城下町へと発展する。文明が開化すれば鉄道を引き、現代的なビル群を建設。そして最後は環境問題を克服した未来都市へ。長くプレイすることで街の変遷を肌で感じることができ、通常のシムシティとは一味違う「歴史シミュレーション」としての側面も楽しめる。
第3期:オンラインへの挑戦とモバイルでの再生(2013-現在)
『シムシティ4』から10年。ファンが待ち望んだナンバリング最新作『シムシティ(2013)』は、美しい3Dグラフィックと、個々の住民の行動までシミュレートする「GlassBoxエンジン」を引っ提げて登場した。しかし、「常時オンライン接続必須」という仕様がサーバーダウンの嵐を招き、発売直後はまともに遊べない事態が発生。狭いマップ制限なども相まって、ファンの期待を裏切る結果となってしまった。
その後、都市開発シムの王座は『Cities: Skylines』などのフォロワー作品に譲った形となったが、モバイル市場においては『シムシティ ビルドイット』などが一定の成功を収め、IPとしての命脈を保っている。
No.8 シムシティ (2013)

| 発売日 | 2013年3月5日 |
|---|---|
| 開発 | Maxis |
| 発売 | Electronic Arts |
| 売上本数 | 200万本以上 |
| 対応ハード | PC / Mac |
| プロデューサー | キップ・カトサレリス |
| ディレクター | オーシャン・クイグリー |
| デザイナー | ストーン・リブラント |
| サウンド | クリス・ティルトン |
【概要】
ナンバリングを廃し、リブート作として発売された意欲作。新開発の「GlassBoxエンジン」により、電気や水、そして住民一人ひとりの動きまでを可視化することに成功した。曲線の道路が引けるようになるなど、ビジュアル面の進化は著しい。しかし、発売直後のサーバーダウン騒動や、マルチプレイを前提とした狭いマップ仕様、AIの挙動の怪しさなどが批判を浴びた。後にオフラインモードが追加されたが、シリーズの信頼を大きく損なう結果となった。
【あらすじ(プレイ体験)】
美しいティルトシフト写真のようなミニチュア風の世界。道路を引くと、それに合わせて建物がニョキニョキと生えてくる様は見ているだけで楽しい。一つのマップで完結するのではなく、複数の都市で資源を融通し合う「マルチシティ」プレイが推奨される。ある都市は観光特化、隣の都市は工業特化といった分業が可能。しかし、意図せず隣の都市から犯罪者や公害が流れ込んでくることも。オンラインで繋がる世界ならではの、共生と軋轢のドラマ。
2013年は『パズル&ドラゴンズ』や『艦隊これくしょん』が大流行し、ゲームの主戦場がパッケージからF2P(基本無料)のオンラインサービスへと移行しつつある時期だった。EAもこの流れに乗り、『シムシティ』をオンラインサービスとして提供しようとしたが、インフラの未整備と、従来のファンが求める「ひとりでじっくり遊ぶ」スタイルとの乖離が、大きな摩擦を生んでしまった。
まとめ:都市は生きている、ゲームもまた然り
「市長となって、自分だけの街を作る」。このシンプルな面白さを世界に知らしめた『シムシティ』シリーズ。
初代が提示した「終わりのない遊び」は、ゲームの歴史における特異点であり、SFC版で多くの日本人に植え付けられた「都市開発の楽しさ」は、今も色褪せることがない。
『2000』での立体的進化、『3000』『4』での緻密なシミュレーションへの深化、そしてDS版での携帯機への最適化。シリーズは常に時代のハードウェアに合わせて形を変えてきた。
残念ながら、2013年版以降、本家ナンバリングタイトルは沈黙を守っている。ジャンルの王座は『Cities: Skylines』などのフォロワー作品に譲った形だが、それらも全てはウィル・ライトが撒いた種から育ったものだ。
都市が生き物のように常に変化し続けるように、シムシティの遺伝子もまた、形を変えて生き続けていく。いつかまた、マクシスのロゴと共に、新たな市長体験ができる日が来ることを、世界中のファンが待ち望んでいる。