この記事で分かる3つのこと
・1989年バートン版から2022年リーヴス版まで全8作の見どころ・あらすじ・レビューを完全収録
・初心者向け・名作厳選・短期集中の3ルートで最適な見る順番がわかる
・歴代ジョーカー俳優の演技比較やバットスーツ進化史など独自コラム5本も充実
- 第1期:ゴシック・ダーク路線期(1989〜1997)
- 第2期:社会派リアリズム三部作期(2005〜2012)
- 番外編:DCエクステンデッド・ユニバースのバットマン
- 第3期:ノワール探偵劇再起動期(2022〜)
- おすすめ名作ランキングTOP3
- バットマン映画はこの順番で見るのがおすすめ
- 質問(FAQ)コーナー
- 歴代バットスーツ進化年表
- 歴代ジョーカー俳優 演技アプローチ比較表
- ゴッサム・シティ設計思想の変遷
- 歴代バットモービル設計思想と車種ベース一覧
- バットマン名言集(英語原文+日本語訳)
- 歴代主題歌・テーマ曲一覧
- 全作品の公開日・興行収入一覧
- 関連作品
- まとめ
バットマンは1939年にDCコミックスで誕生し、80年以上にわたって世界中で愛され続けるダークヒーローである。
超能力を持たず、鍛え上げた肉体と頭脳、そして莫大な資産を武器に犯罪都市ゴッサムシティを守るという設定は、他のアメコミヒーローとは一線を画す存在感を放っている。
本記事では1989年の劇場版第1作から2022年のリーヴス版まで全8作を徹底解説する。同じDCの系譜で独自の進化を遂げたX-MEN映画シリーズとあわせて楽しめば、アメコミ映画史の全体像がより鮮明に見えてくるはずである。
シリーズ基礎データ
原作:DCコミックス『Batman』。1939年5月刊行「ディテクティブ・コミックス」第27号が初出。ボブ・ケイン原作、ビル・フィンガー脚本。
全8作品(バートン/シュマッカー期4作・ノーラン三部作3作・リーヴス版1作)。公開期間:1989〜2022年。製作・配給はワーナー・ブラザース。
シリーズ累計全世界興行収入:約44億8,800万ドル。最高ヒット作:ダークナイト ライジング(約10億8,494万ドル)。
主演俳優:マイケル・キートン → ヴァル・キルマー → ジョージ・クルーニー → クリスチャン・ベール → ロバート・パティンソン。日本語吹替は山寺宏一・竹中直人・小山力也・檀臣幸・櫻井孝宏が歴代で担当。
第1期:ゴシック・ダーク路線期(1989〜1997)
1989年から1997年にかけて公開された4作品は、コミックの世界観を実写映画として初めて本格的に確立した時代である。
初期2作はゴシック美術と狂気のヴィランが織りなすダークな世界観で大人の観客を魅了し、後期2作はネオンカラーとポップな演出へ大きく舵を切った。
結果として興行的には明暗が分かれたが、この4作がなければ後のアメコミ映画ブームは存在しなかったと断言できる。
No.1 バットマン(1989)
| 公開日 | 1989年12月2日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約4億1,134万ドル |
| 監督 | ティム・バートン |
| 脚本 | サム・ハム、ウォーレン・スカーレン |
| 主題歌・音楽 | ダニー・エルフマン(スコア)/プリンス(挿入歌) |
| 俳優 | マイケル・キートン(バットマン)、ジャック・ニコルソン(ジョーカー)、キム・ベイシンガー(ヴィッキー・ベール)、ロバート・ウール(ノックス)、マイケル・ガフ(アルフレッド)、パット・ヒングル(ゴードン総監) |
| メイン声優 | 山寺宏一(バットマン)、玄田哲章(ジョーカー)、小山茉美(ヴィッキー)、江原正士(ノックス)、御友公喜(アルフレッド)、田中耕二(ハービー・デント) |
| RT | 71% |
【見どころ】
ゴッサムシティの退廃的な街並みを丸ごと建造した壮大なセットデザインが最大の見どころである。
犯罪者たちが支配する暗黒の都市で孤独に戦うバットマンの姿は、従来のヒーロー像を根底から覆した。ジャック・ニコルソンが体現するジョーカーの芸術的な狂気と、キートンの静かな二面性の対比が全編を貫く緊張感を生み出している。
【あらすじ】
犯罪が蔓延するゴッサムシティに、黒いマントの怪人「バットマン」が出没するようになる。
その正体は大富豪ブルース・ウェインであり、幼少期に両親を殺された復讐心から自警活動を続けていた。一方、化学工場で薬品に落下したギャングのジャック・ネイピアは白い肌と裂けた口のジョーカーへと変貌し、ゴッサムを恐怖に陥れていく。
【レビュー】
暗闘の中からバットマンが現れる冒頭シーンの衝撃は、何度見返しても色褪せない。
ジョーカーが美術館で名画を破壊しながら踊るシーンには不気味な美しさがあり、ヒーロー映画でこんな映像体験ができるのかと心を掴まれる。闇と狂気が共存するゴッサムの空気感こそ、本作最大の魅力である。
1989年はベルリンの壁崩壊に象徴される冷戦終結の年であり、世界が新たな秩序を模索し始めた転換期である。
映画界ではスピルバーグの『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』が大ヒットし、冒険活劇が全盛を迎えていた。そんな中でバットマンは「ヒーロー映画は子供向け」という常識を打ち砕き、大人が真剣に観られるアメコミ映画という新ジャンルを切り拓いた。
この成功がなければ、後のスパイダーマン映画やアイアンマン映画の隆盛もなかったであろう。
No.2 バットマン リターンズ(1992)
| 公開日 | 1992年7月11日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約2億6,682万ドル |
| 監督 | ティム・バートン |
| 脚本 | ダニエル・ウォーターズ |
| 主題歌・音楽 | ダニー・エルフマン(スコア)/スージー・アンド・ザ・バンシーズ「Face To Face」(挿入歌) |
| 俳優 | マイケル・キートン(バットマン)、ミシェル・ファイファー(キャットウーマン)、ダニー・デヴィート(ペンギン)、クリストファー・ウォーケン(マックス・シュレック)、マイケル・ガフ(アルフレッド)、パット・ヒングル(ゴードン総監) |
| メイン声優 | 山寺宏一(バットマン)、藤田淑子(キャットウーマン)、石田太郎(ペンギン)、野沢那智(シュレック)、内田稔(アルフレッド)、藤本譲(ゴードン) |
| RT | 82% |
【見どころ】
キャットウーマンとペンギンという二大ヴィランの同時登場が本作最大の見どころである。
ミシェル・ファイファーが演じるセリーナ・カイルの変貌シーンは映画史に残る名場面であり、革のスーツに身を包んだ彼女の妖艶さと狂気は観る者を釘付けにする。雪景色のゴッサムを舞台にした退廃的なクリスマスの世界観も圧巻である。
【あらすじ】
クリスマスのゴッサムシティに、下水道で育てられた異形の男ペンギンことオズワルド・コブルポットが姿を現す。
実業家シュレックと手を組んで市長の座を狙うペンギンと、シュレックに殺されかけたことで復讐の化身キャットウーマンへと変貌した秘書セリーナ。バットマンは二つの脅威に同時に立ち向かうことになる。
【レビュー】
キャットウーマンとバットマンが屋上で対峙するシーンには、敵同士でありながら惹かれ合う切なさが溢れている。
ペンギンの孤独な生い立ちに涙し、シュレックの冷酷さに怒り、セリーナの覚醒に心を震わされる。ヴィランの悲しみをここまで丁寧に描いたヒーロー映画はそうそうない。
No.3 バットマン フォーエヴァー(1995)
| 公開日 | 1995年6月17日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約3億3,652万ドル |
| 監督 | ジョエル・シュマッカー |
| 脚本 | アキヴァ・ゴールズマン、リー・バチェラー、ジャネット・スコット・バチェラー |
| 主題歌・音楽 | エリオット・ゴールデンサール(スコア)/Seal「Kiss from a Rose」(主題歌) |
| 俳優 | ヴァル・キルマー(バットマン)、トミー・リー・ジョーンズ(トゥーフェイス)、ジム・キャリー(リドラー)、ニコール・キッドマン(チェイス・メリディアン)、クリス・オドネル(ロビン)、マイケル・ガフ(アルフレッド) |
| メイン声優 | 竹中直人(バットマン)、菅生隆之(トゥーフェイス)、島田敏(リドラー)、田中敦子(チェイス)、宮本充(ロビン)、松岡文雄(アルフレッド) |
| RT | 41% |
【見どころ】
監督交代によってシリーズの色彩設計が一変し、ネオンが輝くポップなゴッサムが誕生した点が最大の見どころである。
ジム・キャリーが全身で表現するリドラーの奇抜な演技は強烈なインパクトを残し、相棒ロビンの初登場によってバットマンの孤独な戦いにバディ要素が加わった。主題歌「Kiss from a Rose」の美しい旋律も印象深い。
【あらすじ】
ゴッサムに二人の新たな脅威が現れる。コインの表裏で善悪を決めるトゥーフェイスと、脳波操作装置でゴッサム市民の精神を支配しようとするリドラーである。
バットマンことブルースは心理学者チェイスとの恋愛に揺れながら、両親を殺されたサーカスの青年ディック・グレイソンをロビンとして迎え入れ、二大ヴィランに挑む。
【レビュー】
トゥーフェイスがコインを弾くたびに運命が分岐する演出には、独特の緊張感がある。
ブルースが自らの過去と向き合い「なぜバットマンであり続けるのか」を問い直す展開は、派手なアクションの裏で静かに胸に響く。賛否は分かれるが、エンターテインメントとしての振り切った楽しさは認めざるを得ない。
No.4 バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲(1997)
| 公開日 | 1997年8月2日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約2億3,820万ドル |
| 監督 | ジョエル・シュマッカー |
| 脚本 | アキヴァ・ゴールズマン |
| 主題歌・音楽 | エリオット・ゴールデンサール(スコア) |
| 俳優 | ジョージ・クルーニー(バットマン)、クリス・オドネル(ロビン)、アリシア・シルヴァーストーン(バットガール)、ユマ・サーマン(ポイズン・アイビー)、アーノルド・シュワルツェネッガー(Mr.フリーズ)、マイケル・ガフ(アルフレッド) |
| メイン声優 | 小山力也(バットマン)、森川智之(ロビン)、石塚理恵(バットガール)、田中敦子(アイビー)、玄田哲章(フリーズ)、御友公喜(アルフレッド) |
| RT | 11% |
【見どころ】
バットガールの初登場でバットファミリーが三人体制となり、チームヒーロー映画としての新境地を見せた点が注目に値する。
Mr.フリーズの氷結兵器による大規模なアクション演出はスケール感があり、ポイズン・アイビーのフェロモン攻撃という異色の戦闘スタイルも独特の味わいを持っている。ヴィラン二人の個性がぶつかり合う構図は見応えがある。
【あらすじ】
難病の妻を救うため冷凍兵器を開発したMr.フリーズがゴッサムを氷漬けにしようと暗躍する。
同時に植物学者から変貌したポイズン・アイビーがフェロモンでロビンを操り、バットマンとロビンの信頼関係に亀裂を入れていく。アルフレッドの姪バーバラがバットガールとして参戦し、三人は二大ヴィランとの最終決戦に挑む。
【レビュー】
批評的には厳しい評価を受けた作品だが、Mr.フリーズが妻ノーラへの愛を叫ぶ場面には純粋に胸を打たれるものがある。
アルフレッドの病と家族の絆を描くサブプロットも意外なほど感動的である。シリーズ最大の「問題作」として語られがちだが、愛すべき作品であることは間違いない。
第2期:社会派リアリズム三部作期(2005〜2012)
8年の沈黙を経て2005年に始まった三部作は、バットマン映画の概念そのものを書き換えた革命的シリーズである。
超現実的なゴッサムではなく実在の都市を思わせるリアルな舞台設計を採用し、テロリズム・監視社会・経済格差といった現代社会の問題をヒーロー映画に正面から持ち込んだ。
その結果、アメコミ映画初の世界興収10億ドル突破を達成し、トランスフォーマー映画と並んで2000年代の大作映画の水準を引き上げた功績は計り知れない。
No.5 バットマン ビギンズ(2005)
| 公開日 | 2005年6月18日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約3億7,271万ドル |
| 監督 | クリストファー・ノーラン |
| 脚本 | クリストファー・ノーラン、デヴィッド・S・ゴイヤー |
| 主題歌・音楽 | ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード(スコア) |
| 俳優 | クリスチャン・ベール(バットマン)、マイケル・ケイン(アルフレッド)、リーアム・ニーソン(デュカード/ラーズ・アル・グール)、ゲイリー・オールドマン(ゴードン)、モーガン・フリーマン(ルーシャス・フォックス)、キリアン・マーフィー(スケアクロウ) |
| メイン声優 | 檀臣幸(バットマン)、小川真司(アルフレッド)、佐々木勝彦(デュカード)、納谷六朗(ゴードン)、池田勝(フォックス)、遊佐浩二(クレイン) |
| RT | 84% |
【見どころ】
「なぜブルース・ウェインはバットマンになったのか」という根源的な問いに、映画史上初めて正面から答えた作品である。
幼少期のトラウマから世界放浪を経てゴッサムに戻るまでの成長過程が丹念に描かれ、バットスーツを初めて纏う瞬間には鳥肌が立つ。リアリズムに徹した格闘シーンとゴッサムの街並みの説得力も圧倒的である。
【あらすじ】
両親を殺されたブルース・ウェインは復讐心を抱えたまま世界を放浪し、ヒマラヤの秘密結社「影の同盟」で格闘術と精神修行を積む。
師デュカードの「犯罪者を根絶やしにせよ」という過激思想を拒絶したブルースはゴッサムに帰還し、バットマンとして街を守る道を選ぶ。だがデュカードの真の計画はゴッサムそのものの壊滅であった。
【レビュー】
ブルースが洞窟でコウモリの大群に囲まれながら恐怖を克服するシーンには、何度観ても心が震える。
アルフレッドの「なぜ落ちる、這い上がるためだ」という言葉は、映画を超えて人生の支えになる名台詞である。ヒーロー映画でありながら人間ドラマとしても一級品の完成度を誇る作品だ。
2001年の同時多発テロ以降、アメリカ社会は「正義とは何か」を根本から問い直す時代に入っていた。
イラク戦争の泥沼化とテロへの恐怖が日常を覆うなか、ハリウッドでも従来型の勧善懲悪ヒーローは説得力を失いつつあった。本作が描いた「恐怖を知る者だけが真のヒーローになれる」というテーマは、まさにポスト9.11の空気と共鳴し、観客に深い納得感を与えた。
アメコミ映画がリアリズムへ舵を切った決定的な転換点である。
No.6 ダークナイト(2008)
| 公開日 | 2008年8月9日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約10億597万ドル(アメコミ映画初の10億ドル突破) |
| 監督 | クリストファー・ノーラン |
| 脚本 | ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン |
| 主題歌・音楽 | ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード(スコア) |
| 俳優 | クリスチャン・ベール(バットマン)、ヒース・レジャー(ジョーカー)、アーロン・エッカート(ハービー・デント/トゥーフェイス)、マギー・ジレンホール(レイチェル)、マイケル・ケイン(アルフレッド)、ゲイリー・オールドマン(ゴードン) |
| メイン声優 | 檀臣幸(バットマン)、藤原啓治(ジョーカー)、木下浩之(トゥーフェイス)、本田貴子(レイチェル)、小川真司(アルフレッド)、納谷六朗(ゴードン) |
| RT | 94% |
【見どころ】
ヒース・レジャーが命を削るように演じたジョーカーの圧倒的な存在感が、本作のすべてを支配している。
「なぜそんなに真剣なんだ」と嗤いながら社会の秩序を破壊していくジョーカーに対し、バットマンは正義を貫くほど追い詰められていく。善と悪の境界が揺らぐ知的な脚本と、IMAX撮影による迫力の映像美が融合した映画史に残る傑作である。
【あらすじ】
ゴッサムの犯罪組織を追い詰めるバットマンと地方検事ハービー・デントの前に、素性不明の犯罪者ジョーカーが現れる。
ジョーカーは「バットマンが正体を明かさなければ毎日人を殺す」と宣言し、ゴッサムを恐怖と混乱に陥れていく。バットマンは街を守るために究極の選択を迫られ、光の騎士デントもまたジョーカーの策略によって闇へと堕ちていく。
【レビュー】
ジョーカーが病院を爆破しながらナース服で去っていくシーンの恐ろしさと滑稽さは、映画体験として唯一無二のものである。
バットマンがすべての罪を背負って夜の闇に消えるラストシーンには、涙を堪えられなかった。ヒーロー映画の枠を完全に超えた、シリーズ最高傑作にして映画史の金字塔である。
No.7 ダークナイト ライジング(2012)
| 公開日 | 2012年7月28日(土) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約10億8,494万ドル(シリーズ最高) |
| 監督 | クリストファー・ノーラン |
| 脚本 | ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン |
| 主題歌・音楽 | ハンス・ジマー(スコア) |
| 俳優 | クリスチャン・ベール(バットマン)、マイケル・ケイン(アルフレッド)、ゲイリー・オールドマン(ゴードン)、アン・ハサウェイ(キャットウーマン)、トム・ハーディ(ベイン)、マリオン・コティヤール(ミランダ・テイト/タリア) |
| メイン声優 | 檀臣幸(バットマン)、小川真司(アルフレッド)、納谷六朗(ゴードン)、園崎未恵(キャットウーマン)、山路和弘(ベイン)、五十嵐麗(タリア) |
| RT | 87% |
【見どころ】
8年間の隠遁生活で心身ともに衰えたブルースが、最強の敵ベインに叩きのめされてから再起する姿が最大の見どころである。
奈落の監獄から這い上がるシーンは三部作全体のテーマ「恐怖を乗り越える」の集大成であり、観る者の心を激しく揺さぶる。アン・ハサウェイが演じるキャットウーマンのクールな魅力とシリーズ完結にふさわしい壮大なスケール感も圧巻である。
【あらすじ】
ダークナイト事件から8年、ブルースは引退状態にあった。だが仮面の傭兵ベインがゴッサムに現れ、街を完全に外界から孤立させる。
ベインに背骨を折られ地下牢獄に落とされたブルースは、絶望の底から立ち上がりゴッサムへ帰還する。泥棒セリーナ・カイルの助けを借りながら、ベインとその背後に潜む真の黒幕との最終決戦に挑む。
【レビュー】
地下牢獄でブルースが跳躍に成功し、囚人たちの歓声とともに光の中へ飛び出すシーンは何度観ても涙が止まらない。
アルフレッドがカフェでブルースを見つけるラストシーンの静かな微笑みには、三部作すべての感動が凝縮されている。歴代シリーズ最高の興収を記録した、完璧な完結編である。
番外編:DCエクステンデッド・ユニバースのバットマン
2013年の『マン・オブ・スティール』を起点に始動したDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)では、ベン・アフレックが新たなバットマンを演じた。
ティム・バートン版やクリストファー・ノーラン版とは異なり、すでにキャリア20年を超えた「疲弊したベテランのバットマン」として描かれた点が最大の特徴である。
単独映画こそ実現しなかったものの、クロスオーバー作品を通じてDC映画史に確かな足跡を残した存在であり、本編とは別軸の「もう一つのバットマン像」として押さえておきたい。
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生
| 公開日 | 2016年3月25日 |
|---|---|
| 監督 | ザック・スナイダー |
| 俳優 | ベン・アフレック(バットマン)、ヘンリー・カヴィル(スーパーマン)、ガル・ガドット(ワンダーウーマン) |
【見どころ】
DCの二大ヒーローが初めてスクリーン上で激突するという、ファンが長年待ち望んだ対決が実現した一作である。
超人的な力を持つスーパーマンに対して、人間であるバットマンがパワードスーツと知略で挑む構図が最大の見どころであり、両者の正義観の相違が物語の核を成している。
【あらすじ】
メトロポリスでの戦闘に巻き込まれ社員を失ったブルース・ウェインは、スーパーマンを脅威と見なし排除を決意する。
一方、レックス・ルーサーの暗躍により二人は衝突へと追い込まれるが、共通の敵ドゥームズデイの出現によって和解し、共闘に至る。
ザ・フラッシュ(2023)
| 公開日 | 2023年6月16日 |
|---|---|
| 監督 | アンディ・ムスキエティ |
| 俳優 | エズラ・ミラー(フラッシュ)、ベン・アフレック(バットマン)、マイケル・キートン(バットマン) |
【見どころ】
マルチバースを扱う本作では、ベン・アフレック版バットマンに加え、1989年のマイケル・キートン版バットマンが約34年ぶりに復帰するという驚きの展開が用意された。
二つの時代のバットマンが同じスクリーンに立つ瞬間は、シリーズファンにとって感涙ものの光景である。
【あらすじ】
母の死を覆すためタイムトラベルを試みたフラッシュは、別の時間軸に迷い込む。そこではスーパーマンが存在せず、ゾッド将軍の侵攻が迫っていた。
引退していたキートン版バットマンの力を借りて危機に立ち向かうが、時間改変の代償として苦い選択を迫られることになる。
第3期:ノワール探偵劇再起動期(2022〜)
ノーラン三部作の完結から10年。バットマンの実写映画は再び原点回帰を果たした。マット・リーヴス監督は、これまでのアクション大作路線とは一線を画し、バットマンの「世界最高の探偵」という側面に光を当てたノワール・スリラーを構築した。
ゴッサムの街は常に雨に濡れ、バットマンは闇の中を這うようにして真相に迫る。ヒーロー映画の文法を借りた犯罪捜査劇という新たな地平を切り拓いた期である。
No.8 THE BATMAN-ザ・バットマン-(2022)
| 公開日 | 2022年3月11日(金) |
|---|---|
| 全世界興行収入 | 約7億7,232万ドル(世界) |
| 監督 | マット・リーヴス |
| 脚本 | マット・リーヴス、ピーター・クレイグ |
| 主題歌・音楽 | マイケル・ジアッチーノ(スコア) |
| 俳優 | ロバート・パティンソン(ブルース・ウェイン/バットマン)、ゾーイ・クラヴィッツ(セリーナ・カイル/キャットウーマン)、ポール・ダノ(リドラー)、ジェフリー・ライト(ジェームズ・ゴードン警部補)、ジョン・タトゥーロ(カーマイン・ファルコーネ)、コリン・ファレル(ペンギン) |
| 声優(吹替) | 櫻井孝宏(バットマン)、ファイルーズあい(キャットウーマン)、石田彰(リドラー)、辻親八(ゴードン)、千葉繁(ファルコーネ)、金田明夫(ペンギン) |
【見どころ】
活動開始からわずか2年目の「未熟なバットマン」を描く本作は、シリーズ史上最もダークかつ内省的な一作である。
リドラーが仕掛ける暗号を一つずつ解読しながらゴッサムの権力構造の闇に迫る展開は、デヴィッド・フィンチャーの『セブン』や『ゾディアック』を彷彿とさせる。ロバート・パティンソンの陰鬱で孤独な佇まいが、従来のバットマン像を根底から塗り替えた。
【あらすじ】
ハロウィンの夜、ゴッサム市長が何者かに殺害される。現場に残された暗号メッセージは「バットマンへ」と記されていた。
犯人リドラーは次々と権力者を標的にし、ゴッサムに巣食う腐敗を暴いていく。バットマンはゴードン警部補とともに捜査を進めるうちに、亡き父トーマス・ウェインの隠された過去に直面し、自らの正義の在り方を問い直すことになる。
【レビュー】
176分の長尺を一切だれさせない脚本の密度が圧巻である。雨に濡れたゴッサムの街並み、ニルヴァーナの「Something in the Way」が流れるバットケイヴ、
そしてパティンソンが見せる「怒りを原動力にする若者」としてのブルース・ウェイン像は、どれも従来作とは異質の手触りを持つ。ヒーロー映画でありながら犯罪捜査劇として成立している稀有な作品であり、新世代のバットマン映画として鮮烈な印象を残す一作である。
時代背景コラム:2022年のエンタメ事情
2022年はコロナ禍からの劇場回帰が本格化した年である。『トップガン マーヴェリック』が全世界14億ドル超の大ヒットを記録し、劇場体験の価値が再認識された。
一方でDisney+やHBO Maxといった配信プラットフォームの競争も激化し、映画の公開形態そのものが問い直されていた時期でもある。
そうした中で『THE BATMAN』は176分という配信向きとは言い難い長尺で劇場公開に踏み切り、世界興収7.7億ドルを達成した。「劇場でじっくり浸る映画体験」への需要を証明した作品であった。
おすすめ名作ランキングTOP3
全8作の中から、映画としての完成度・バットマン映画史における革新性・リピート視聴の満足度を総合的に評価し、3作品を選出した。
第1位|善悪の境界を消し去った犯罪叙事詩 ダークナイト
ダークナイト(2008)は、バットマン映画の枠組みを完全に超越した作品である。クリストファー・ノーランは「ヒーロー対ヴィラン」という定番の構図を解体し、正義と悪の境界が曖昧になる犯罪叙事詩を描き切った。
ヒース・レジャーが命を削るようにして演じたジョーカーは、アカデミー助演男優賞を受賞し、アメコミ映画史上最も偉大なヴィラン演技として語り継がれている。バットマンが「正義のために悪を背負う」という究極の選択を迫られるラストは、単なるアクション映画では到達し得ない哲学的深度を持つ。
全世界興行収入10億ドル超えという商業的成功と、批評家からの圧倒的な支持を両立させた本作は、アメコミ映画がアカデミー作品賞候補になり得る道を切り拓いた歴史的一作である。2008年の公開から時を経てなお、繰り返しの鑑賞に耐える密度を保ち続けている。
第2位|暗黒のゴッサムを創造した革命的原点 バットマン 1989
バットマン(1989)は、ティム・バートンがアメコミ映画の概念そのものを書き換えた革命的一作である。1960年代のテレビシリーズによって「コミカルなヒーロー」と認識されていたバットマンを、ダークで芸術的な世界観の中に再配置した功績は計り知れない。
ジャック・ニコルソンが演じるジョーカーの狂気と洒落っ気が同居する演技は、後のヴィラン俳優たちの指標となった。アントン・ファーストが設計したゴッサム・シティの美術は、アカデミー美術賞を受賞している。
プリンスが手掛けたサウンドトラック『Batdance』が全米1位を獲得するなど、映画の枠を超えた文化現象を巻き起こした。バットマン映画の歴史はこの一作から始まったと言ってよい。
第3位|雨のゴッサムに響く復讐の足音 THE BATMAN
THE BATMAN-ザ・バットマン-(2022)は、ヒーロー映画のフォーマットを借りた本格犯罪捜査劇である。マット・リーヴス監督は、バットマンの原点である「探偵」としての側面を前面に押し出し、これまでのどの実写映画とも異なるアプローチを実現した。
ロバート・パティンソンが演じるのは、活動2年目の未熟で怒りに満ちた青年バットマンである。マスクの下にアイブラックを塗った素顔、ニルヴァーナを聴きながら日記を書く姿は、従来のブルース・ウェイン像を根底から覆した。
ジェームズ・チンランドが設計した雨に沈むゴッサムの美術、マイケル・ジアッチーノによる重厚なスコアが織りなす映像詩は、176分の長尺を一瞬たりとも退屈させない。新世代バットマンの到達点として、今後のシリーズ展開にも大きな期待がかかる一作である。
バットマン映画はこの順番で見るのがおすすめ
バットマン映画全8作は、各期で世界観がリセットされるため、すべてを公開順に見る必要はない。ここでは目的別に厳選した3つのルートを提案する。
ルートA:映画史を追体験する王道ルート
バットマン(1989) → バットマン リターンズ(1992) → バットマン ビギンズ(2005) → ダークナイト(2008) → ダークナイト ライジング(2012) → THE BATMAN(2022)
バットマン映画の進化を時系列で体感するルートである。バートンが1989年に打ち立てた「ダーク路線」の原型を知ったうえで、ノーラン三部作のリアリズムへと進み、最後にリーヴスの探偵劇で締めくくる。
シュマッカー期の2作を省くことで全体のトーンが統一され、「なぜバットマン映画は暗いのか」という問いに対する映画史的な回答が得られる構成になっている。初めてバットマン映画に触れる方に最も推奨できるルートである。
ルートB:ヴィラン名演を堪能するルート
バットマン(1989) → ダークナイト(2008) → THE BATMAN(2022) → バットマン リターンズ(1992) → バットマン フォーエヴァー(1995)
バットマン映画の醍醐味は、実はヴィランにある。ニコルソンのジョーカー、レジャーのジョーカー、ダノのリドラーという三者三様の怪演を核に据え、さらにファイファーのキャットウーマン、キャリーのリドラーへと広げていくルートである。
「同じヴィランでも俳優と監督が変わるとここまで変わるのか」という驚きが最大の見どころであり、演技論や俳優の役作りに興味がある方には特に刺さるはずだ。
ルートC:短期集中で要点だけ押さえるルート
バットマン ビギンズ(2005) → ダークナイト(2008) → THE BATMAN(2022)
時間がない方のための最短ルートである。ノーラン版でバットマンの誕生譚と最高傑作を押さえ、リーヴス版で最新の解釈を知る。この3本だけでバットマン映画の本質は十分に理解できる。
余力があれば1989年のバートン版を加えると、バットマン映画のダーク路線がどこから始まったのかがわかり、理解の奥行きが格段に増すのでおすすめである。
質問(FAQ)コーナー
Q1. ノーラン版『ダークナイト』でジョーカーの「過去」が複数語られるが、どれが本当なのか
劇中でジョーカーは口元の傷の由来について二つの異なるエピソードを語るが、どちらも真実であるとは限らない。これはクリストファー・ノーラン監督が意図的に「ジョーカーの過去を不明にする」演出として設計したものである。
コミック版でもジョーカーの起源は複数の矛盾するバージョンが存在し、「本人ですら自分の過去を覚えていない」という設定が採用されている。映画では脚本のジョナサン・ノーランがこの原作設定を踏襲し、観客が真実を確定できない構造を作り上げた。正解がないことこそがジョーカーというキャラクターの本質である。
Q2. バートン版とノーラン版でバットマンの「殺さないルール」の扱いはどう違うのか
バートン版の『バットマン(1989)』と『バットマン リターンズ(1992)』では、バットマンは敵を直接的に殺害する描写が複数存在する。工場の爆破やバットモービルによる攻撃など、明確に命を奪う行為が描かれている。
一方、ノーラン版では「殺さないルール」がバットマンの哲学として物語の中核に据えられた。『バットマン ビギンズ』でラーズ・アル・グールを「救わない」という形で間接的に死に至らしめる描写はあるものの、直接手を下すことは避けている。この違いは時代ごとのヒーロー倫理観の変化を如実に映し出している。
Q3. 『THE BATMAN』のリドラーはなぜ従来のコミカルなイメージと大きく異なるのか
従来のリドラーは緑のスーツにクエスチョンマークの杖という派手な出で立ちで、知的ゲームを楽しむ愉快犯として描かれてきた。しかし『THE BATMAN』のマット・リーヴス監督は、現実のゾディアック事件やSNS時代の過激思想に着想を得て、リドラーを「社会に怒りを持つ孤独な市民」として再構築した。
ポール・ダノの演技は静かな狂気に満ちており、ライブ配信で犯行を公開しフォロワーを扇動するという現代的な恐怖を体現している。権力の腐敗に対する義憤という動機はバットマン自身と紙一重であり、その類似性が物語に奥行きを与えている。
Q4. ノーラン三部作とバートン版でゴッサム・シティの描かれ方が全く違うのはなぜか
バートン版のゴッサムは、美術監督アントン・ファーストがパインウッド・スタジオに巨大セットを組んで創り上げた架空都市であり、ゴシック建築とアール・デコが融合した「現実には存在しない街」として設計された。
対してノーラン版のゴッサムは、シカゴやピッツバーグといった実在の都市でロケ撮影が行われている。これはノーラン監督が掲げた「リアリズム」の方針に基づくもので、観客が「自分たちの住む街にバットマンがいたら」と感じられることを意図している。両者の違いは、ファンタジーとリアリズムという監督の世界観設計思想の違いそのものである。
Q5. バットマン映画で日本語吹替版の声優が作品ごとに変わるのはなぜか
バットマンの日本語吹替は、作品ごとに異なる声優が担当している。1989年版の渡辺裕之、ノーラン三部作の檀臣幸から東地宏樹、2022年版の櫻井孝宏と、同一キャラクターでありながら声が一貫しない。
これは日本の洋画吹替業界の慣例に起因する。ハリウッド映画の吹替は配給会社や放送局ごとに独自にキャスティングが行われるため、俳優が変わればもちろん、同じ俳優が演じていても版権や契約の関係で声優が変更されることがある。バットマンの場合は主演俳優自体が入れ替わるため、それに合わせて声の印象も刷新されているのである。
歴代バットスーツ進化年表
バットマン映画の歴史は、バットスーツの進化の歴史でもある。
各時代の監督とデザイナーが追求したスーツの方向性を一覧にまとめた。
| 作品(年) | デザイナー | スーツの特徴 |
|---|---|---|
| バットマン(1989) | ボブ・リングウッド | 全身ブラックのラバー製ワンピース型。首が回らない構造で、バットマンの不気味な重厚感を演出した。映画用バットスーツの原型を確立 |
| バットマン リターンズ(1992) | ボブ・リングウッド、メアリー・ヴォクト | 1989年版の改良型。可動域がやや拡大され、マスクのフォルムがよりシャープになった。全体の質感はほぼ踏襲している |
| バットマン フォーエヴァー(1995) | バーバラ・リング、イングリッド・フェリン | 筋肉造形が強調されたボディアーマー型に転換。終盤には銀色のソナースーツが登場し、玩具展開を意識したデザインとなった |
| バットマン&ロビン(1997) | バーバラ・リング | 物議を醸した「バットニップル」付きスーツ。氷をテーマにした銀色アーマーも登場し、商業的なデザイン優先が顕著になった |
| バットマン ビギンズ(2005) | リンディ・ヘミング | 軍事技術の応用という設定に基づくリアリスティック路線。ケブラー風の装甲パネルを組み合わせたセパレート構造で、初めて首が自由に動くバットスーツとなった |
| ダークナイト(2008) | リンディ・ヘミング | ビギンズ版をさらに軽量化・機動性重視に改良。バイク用プロテクターを思わせるモジュラー構造で、クリスチャン・ベールのアクションの幅が大きく広がった |
| ダークナイト ライジング(2012) | リンディ・ヘミング | ダークナイト版のマイナーチェンジ。カウルの造形がやや丸みを帯び、全体的に洗練された印象に仕上げられている |
| THE BATMAN(2022) | ジャクリーン・デュラン、ガリー・フリーマン | 手作り感のある革製アーマー。胸のバットシンボルは銃を溶かして鋳造したという設定で、DIY的な質感が「活動2年目の自作スーツ」を体現している |
バットスーツの変遷を辿ると、バットマン映画が各時代に何を重視してきたかが浮かび上がる。バートン期は「恐怖の象徴」としての視覚的インパクト、シュマッカー期は「商品としての華やかさ」、ノーラン期は「兵器としてのリアリティ」、そしてリーヴス期は「個人の怒りを纏う手作りの鎧」である。
スーツの進化はそのまま、各監督が「バットマンとは何者か」という問いにどう答えたかの記録でもある。
歴代ジョーカー俳優 演技アプローチ比較表
バットマンの宿敵ジョーカーは、演じる俳優によって全く異なるキャラクターに変貌する。
バットマン映画に登場した二人のジョーカーと、単独映画で新たな解釈を提示したホアキン・フェニックス版を比較する。
| 項目 | ジャック・ニコルソン(1989) | ヒース・レジャー(2008) | ホアキン・フェニックス(2019)※単独映画 |
|---|---|---|---|
| 作品 | バットマン | ダークナイト | ジョーカー |
| 演技アプローチ | 自身のスター性を活かした余裕のある怪演。コミカルさと残忍さを同居させ、観客を魅了しながら恐怖を与える手法 | 役に完全に没入するメソッド演技。撮影期間中はホテルの一室に籠もり、ジョーカーの日記を書き続けて精神状態を構築した | 30kg以上の減量を行い、肉体から役を構築。笑いの発作という身体表現を軸に、社会から疎外された男の内面を描き出した |
| ジョーカー像 | ギャングのボスが化学薬品で変貌した犯罪王。過去が明確に描かれる | 過去も本名も不明の純粋な混沌の体現者。社会実験としての犯罪を仕掛ける | 精神疾患を抱える孤独な男が社会に追い詰められて覚醒する悲劇の主人公 |
| 準備期間 | 通常のスケジュール。ニコルソンの経験と即興力に依拠 | 約6か月間の役作り。声のトーン、身体の動き、表情を独自に開発 | 数か月の減量と心理研究。実在の神経疾患の映像を研究 |
| 受賞歴 | ゴールデングローブ賞候補 | アカデミー助演男優賞受賞(没後受賞) | アカデミー主演男優賞受賞 |
三者のジョーカーに共通するのは、「狂気」の表現方法が時代とともに変化している点である。ニコルソン版の狂気はエンターテインメントの延長線上にあり、観客は安全な距離から楽しむことができた。
レジャー版では狂気が「理解不能な他者」として立ち現れ、観客の倫理観そのものを揺さぶった。フェニックス版に至っては、狂気が「社会が生み出したもの」として描かれ、観客自身が加害者側に立たされる構造となっている。
ジョーカーという一つの役柄が、これほどまでに多様な解釈を許容し、いずれも映画史に残る名演となっている事実は、このキャラクターの底知れない奥行きを証明している。
ゴッサム・シティ設計思想の変遷
バットマンの物語は、ゴッサム・シティという架空都市なしには成立しない。犯罪と腐敗が蔓延し、夜の闇が街を支配するこの都市は、各監督と美術監督の手によって全く異なる姿に生まれ変わってきた。
ゴッサムの設計思想を辿ることは、バットマン映画の演出哲学を理解する最短ルートである。
| 監督(期) | 美術監督 | 撮影地・手法 | 設計思想 |
|---|---|---|---|
| ティム・バートン(第1期) | アントン・ファースト | パインウッド・スタジオ(巨大セット) | ゴシック建築とアール・デコの融合。現実には存在しない「悪夢の都市」を一から構築し、アカデミー美術賞を受賞した |
| ジョエル・シュマッカー(第1期後半) | バーバラ・リング | ワーナー・ブラザース・スタジオ | ネオンと巨大彫像が氾濫するポップアート的都市。古代ギリシャ彫刻とネオンサインを掛け合わせた過剰装飾が特徴である |
| クリストファー・ノーラン(第2期) | ネイサン・クロウリー | シカゴ、ピッツバーグ、ロンドン(実在都市ロケ) | 実在の大都市をゴッサムに見立てるリアリズム路線。「この街に自分も住んでいるかもしれない」という没入感を最優先にした |
| マット・リーヴス(第3期) | ジェームズ・チンランド | リヴァプール、グラスゴー(英国都市ロケ) | 常に雨が降り、薄暗い路地が続くノワール的都市。19世紀の工業都市を思わせる湿った質感で、腐敗が空気に染み込んだ街を表現した |
ファーストのゴッサムが「夢の中の恐怖」であるとすれば、リングのゴッサムは「遊園地の悪夢」、クロウリーのゴッサムは「現実社会の鏡」、チンランドのゴッサムは「腐敗が物質化した街」である。
興味深いのは、バートンとリーヴスがともにスタジオ寄りの手法を選びながらも、前者がファンタジーに振り、後者がリアリズムに振っている点である。セットか実在都市かという二項対立ではなく、「どのような感情を観客に喚起したいか」が設計思想の根幹にあることがわかる。
ゴッサム・シティは単なる背景ではなく、バットマン映画における「もう一人の主役」なのである。
歴代バットモービル設計思想と車種ベース一覧
バットモービルはバットマンの「動く武器庫」であると同時に、各時代の映画が目指す方向性を象徴するアイコンでもある。全作品のバットモービルを比較する。
| 作品(年) | デザイナー | ベース車両・構造 | 設計思想・特徴 |
|---|---|---|---|
| バットマン(1989) | アントン・ファースト | シボレー・インパラのシャーシを流用した完全ワンオフ | 全長約6.7mの流線型ジェットエンジン搭載車。ゴシック建築と航空機デザインの融合で、「走る彫刻」のような存在感を放つ |
| バットマン リターンズ(1992) | ティム・フラタリー | 1989年版の改修型 | 基本デザインを踏襲しつつ、サイドアーマーの追加やコクピット周辺を改良。防御力を強調した仕様となった |
| バットマン フォーエヴァー(1995) | バーバラ・リング | 完全新規造形 | リブ状のフィンが全体を覆うオーガニックなデザイン。ブラックライトで発光するネオンラインが追加され、シュマッカーの派手な美学を体現 |
| バットマン&ロビン(1997) | バーバラ・リング | 完全新規造形 | 一人乗りのオープンコクピット型。フロントに巨大なバットウイングを配置した最も玩具的なデザインで、商品展開を強く意識している |
| バットマン ビギンズ/ダークナイト(2005-2012) | ネイサン・クロウリー | 「タンブラー」。軍用車両のコンセプトカーという設定 | 全幅約2.8mの装甲車型。ランボルギーニとハマーを掛け合わせたような外観で、ジャンプ走行が可能な実動車両として製作された |
| THE BATMAN(2022) | ジェームズ・チンランド、アッシュ・ソープ | 1970年代型ダッジ・チャージャーをベースにした改造車 | リアにジェットエンジンを露出させたマッスルカー。ブルースが自ら組み上げた「手作り感」があり、未完成の荒々しさが活動2年目の設定と合致する |
バットモービルの変遷は、バットマン映画における「リアリティライン」の移り変わりを如実に示している。
バートン期の流線型ジェットカーから、ノーラン期の軍用装甲車、リーヴス期のマッスルカーへと変化する軌跡は、ファンタジーからリアリズムへ、そして「手作りの正義」へという映画全体の志向性の変化と完全に連動している。
バットマン名言集(英語原文+日本語訳)
バットマン映画には、キャラクターの哲学を凝縮した名台詞が数多く存在する。シリーズを象徴する10の名言を英語原文と日本語訳で紹介する。
1.「I'm Batman.」
(俺がバットマンだ。)
――バットマン『バットマン(1989)』
マイケル・キートンが犯罪者に向けて放った、シリーズ史上最もシンプルにして最も有名な一言である。以降すべてのバットマン俳優がこの台詞を引き継いでいる。
2.「Have you ever danced with the devil in the pale moonlight?」
(月夜に悪魔と踊ったことはあるか。)
――ジョーカー『バットマン(1989)』
ジャック・ニコルソンのジョーカーが犯行前に必ず口にする謎めいた台詞である。意味があるようでないこの言葉こそ、ジョーカーの狂気の本質を表している。
3.「Why do we fall, sir? So that we can learn to pick ourselves up.」
(なぜ人は落ちるのか。這い上がることを学ぶためですよ。)
――アルフレッド『バットマン ビギンズ(2005)』
執事アルフレッドがブルースに語る人生哲学である。ノーラン三部作を貫くテーマが、この一文に集約されている。
4.「It's not who I am underneath, but what I do that defines me.」
(大切なのは内面ではなく、何をするかだ。)
――バットマン『バットマン ビギンズ(2005)』
レイチェルへの返答として放たれた台詞である。仮面の下の素顔ではなく、行動によって自分を定義するというバットマンの存在論が凝縮されている。
5.「Why so serious?」
(なぜそんなに怖い顔をしている。)
――ジョーカー『ダークナイト(2008)』
ヒース・レジャーのジョーカーを象徴する決め台詞である。恐怖の場面で平然と発せられるこの言葉は、善悪の常識を嘲笑う混沌そのものである。
6.「You either die a hero, or you live long enough to see yourself become the villain.」
(英雄のまま死ぬか、生き延びて自らが悪になるかだ。)
――ハーヴィー・デント『ダークナイト(2008)』
光の騎士デントが発した予言的台詞である。彼自身がトゥーフェイスとなる運命を考えると、この言葉は二重の意味で胸に刺さる。
7.「Some men just want to watch the world burn.」
(世界が燃えるのをただ見ていたい、そういう人間もいるのです。)
――アルフレッド『ダークナイト(2008)』
ジョーカーの動機を理解しようとするブルースに対し、アルフレッドが語った言葉である。交渉も説得も通じない純粋な悪意の存在を静かに指摘している。
8.「Madness, as you know, is like gravity. All it takes is a little push.」
(狂気は重力のようなものだ。ほんの少し背中を押すだけでいい。)
――ジョーカー『ダークナイト(2008)』
ジョーカーがバットマンに告げた最終的な哲学である。誰もが一押しで狂気に堕ちるという主張は、ハーヴィー・デントの転落によって劇中で証明されてしまう。
9.「Not everything. Not yet.」
(すべてではない。まだだ。)
――バットマン『ダークナイト ライジング(2012)』
キャットウーマンに「すべてを差し出した」と言われた際の返答である。すべてを失いかけてなお戦い続けるバットマンの不屈の意志が短い言葉に凝縮されている。
10.「I am vengeance.」
(俺は復讐だ。)
――バットマン『THE BATMAN-ザ・バットマン-(2022)』
ロバート・パティンソンのバットマンが犯罪者に名乗る台詞である。「正義」ではなく「復讐」と名乗るところに、このバットマンの未熟さと怒りの純度が表れている。物語を通じてこの言葉の意味が変容していく構造が、本作の核心である。
歴代主題歌・テーマ曲一覧
| No. | 作品 | 主題歌/テーマ曲 | アーティスト |
|---|---|---|---|
| 1 | バットマン(1989) | Batdance | プリンス |
| 2 | バットマン リターンズ(1992) | Face To Face | スージー・アンド・ザ・バンシーズ |
| 3 | バットマン フォーエヴァー(1995) | Kiss from a Rose | Seal |
| 4 | バットマン&ロビン(1997) | ― | ― |
| 5 | バットマン ビギンズ(2005) | ―(スコアのみ) | ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード |
| 6 | ダークナイト(2008) | ―(スコアのみ) | ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード |
| 7 | ダークナイト ライジング(2012) | ―(スコアのみ) | ハンス・ジマー |
| 8 | THE BATMAN(2022) | ―(スコアのみ) | マイケル・ジアッチーノ |
バットマン映画の音楽史を俯瞰すると、1990年代と2000年代以降で明確な転換点があることに気づく。バートン期からシュマッカー期にかけては、ポップアーティストによる主題歌が映画の顔として機能していた。
プリンスの『Batdance』は全米ビルボードHot 100で1位を獲得し、映画公開前から話題を席巻した。Sealの『Kiss from a Rose』はグラミー賞3部門を受賞し、映画本編の評価を上回るほどの名曲として独立した生命を持つに至っている。
しかしノーラン三部作以降、バットマン映画からポップソングは姿を消した。ハンス・ジマーが生み出した重低音のスコアは、バットマンの内面世界そのものを音で描く手法であり、既存の楽曲を挿入する余地を排除している。
この変化は音楽面でも「エンターテインメントからリアリズムへ」という映画全体の潮流と完全に一致している。リーヴス版のマイケル・ジアッチーノもスコア一本で勝負しており、主題歌不在はもはやバットマン映画の新たな伝統と呼べるだろう。
なお劇中使用曲としては、『THE BATMAN』でニルヴァーナの「Something in the Way」が印象的に使用され、公開後にSpotifyでの再生回数が急増した。スコア中心の時代にあっても、選び抜かれた既存楽曲が映画体験を決定づける力は健在であることを示した好例である。
全作品の公開日・興行収入一覧
| No. | 作品名 | 公開日 | 世界興行収入 |
|---|---|---|---|
| 1 | バットマン(1989) | 1989年6月23日 | 約4億1,135万ドル |
| 2 | バットマン リターンズ(1992) | 1992年6月19日 | 約2億6,683万ドル |
| 3 | バットマン フォーエヴァー(1995) | 1995年6月16日 | 約3億3,653万ドル |
| 4 | バットマン&ロビン(1997) | 1997年6月20日 | 約2億3,838万ドル |
| 5 | バットマン ビギンズ(2005) | 2005年6月15日 | 約3億7,424万ドル |
| 6 | ダークナイト(2008) | 2008年7月18日 | 約10億492万ドル |
| 7 | ダークナイト ライジング(2012) | 2012年7月20日 | 約10億8,186万ドル |
| 8 | THE BATMAN(2022) | 2022年3月4日 | 約7億7,232万ドル |
関連作品
ジョーカー(2019)
| 公開日 | 2019年10月4日 |
|---|---|
| 監督 | トッド・フィリップス |
| 俳優 | ホアキン・フェニックス(アーサー・フレック/ジョーカー) |
| 全世界興行収入 | 約10億7,422万ドル(世界) |
【見どころ】
バットマンが一切登場しない「ヴィラン単独映画」という前代未聞の試みである。1981年のゴッサムを舞台に、社会から疎外されたコメディアン志望の男アーサー・フレックが、ジョーカーへと変貌していく過程を描く。
マーティン・スコセッシの『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』を下敷きにした作家性の強い一作であり、アメコミ映画で初めてヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞を受賞した。
【あらすじ】
精神疾患により不随意の笑いの発作を抱えるアーサーは、コメディアンになる夢を追いながら母と二人で暮らしている。福祉の打ち切り、職場での解雇、そして母の隠していた過去の真実が次々と明らかになり、彼の精神は限界に達する。
地下鉄での発砲事件をきっかけにゴッサムの貧困層から英雄視されたアーサーは、ピエロの仮面をかぶった暴徒の象徴「ジョーカー」として覚醒していく。
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まとめ
1989年のティム・バートン版から2022年のマット・リーヴス版まで、バットマン映画は30年以上にわたって「闇の騎士」の姿を問い直し続けてきた。ゴシック・ファンタジーとして始まったシリーズは、ポップアート的な逸脱を経てリアリズムの極北に到達し、さらにノワール探偵劇という新境地を切り拓いた。
監督が変わるたびにバットスーツもバットモービルもゴッサムの街並みも一新されてきたが、「なぜブルース・ウェインは夜ごとマスクをかぶるのか」という根源的な問いだけは、すべての作品に通底している。
各時代の社会不安や正義観を映し出す鏡として、バットマン映画は今後も新たな解釈を生み出し続けるだろう。次に闇の騎士がスクリーンに立つとき、我々はまた別の「バットマンとは何者か」という答えに出会うことになるはずである。










