「エンディングまで、泣くんじゃない。」 このキャッチコピーを覚えているだろうか?
1989年、剣と魔法のファンタジーRPGが全盛だった時代に、バットとフライパンを武器に、現代のアメリカを思わせる世界を冒険する一風変わったRPGが登場した。コピーライターの糸井重里氏がゲームデザインを手掛けた『MOTHER』シリーズである。任天堂の宮本茂氏や、後に社長となる岩田聡氏ら、そうそうたるメンバーが開発に関わり、独特のセリフ回し、心に染みる音楽、そしてちょっぴり切ない物語は、多くのプレイヤーの心に深い爪痕を残した。
シリーズは全3作で完結しているが、その人気は衰えることを知らず、「ほぼ日刊イトイ新聞」でのグッズ展開や、「HOBONICHI MOTHER PROJECT」などを通じて、新たなファンを獲得し続けている。本記事では、大人も子供も、おねーさんも夢中になった『MOTHER』シリーズ全3作品の軌跡を振り返る。
シリーズ基礎データ
『MOTHER』(マザー)は、任天堂より発売されたRPGシリーズ。第1作は1989年にファミリーコンピュータで発売。ゲームデザインとシナリオをコピーライターの糸井重里が担当。現代(または近未来)を舞台に、超能力を持つ少年少女たちが、地球征服を企む宇宙人や異形の存在と戦う。「PSI(サイ)」と呼ばれる超能力や、HPがドラムロール式に減るシステム、独特のユーモアと哲学が含まれたテキストが特徴。シリーズは『3』をもって完結しているが、その影響力はインディーゲーム(『UNDERTALE』など)にも波及している。
歴代作品一覧
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※売上は日本国内の概算データを参照。
| No | 発売日 | タイトル | 売上本数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 1989/7/27 | MOTHER | 約40万本 |
| 2 | 1994/8/27 | MOTHER2 ギーグの逆襲 | 約52万本 |
| 3 | 2006/4/20 | MOTHER3 | 約40万本 |
第1期:名作の誕生と現代劇RPGの衝撃(1989)
1989年、ゲーム業界は『ドラゴンクエストIII』や『ファイナルファンタジーII』の熱狂冷めやらぬ中、剣と魔法が支配するファンタジーRPG全盛期にあった。そんな時代に、Tシャツにジーンズ姿の少年が、バットを振って戦うRPG『MOTHER』はあまりにも異質だった。
「名作保証。」という強気なキャッチコピーと共に現れた本作は、糸井重里氏が構想し、任天堂の宮本茂氏がプロデュースするという異色のタッグで制作された。斜め見下ろしの広大なアメリカン・マップ、シームレスに繋がる世界(当時としては画期的)、そしてムーンライダーズの鈴木慶一氏と田中宏和氏による音楽は、ゲームを「子供の遊び」から「文化」へと引き上げるのに一役買った。難易度は高かったが、その独自の世界観は多くのフォロワーを生んだ。
No.1 MOTHER

| 発売日 | 1989年7月27日 |
|---|---|
| 開発 | エイプ / パックスソフトニカ |
| 発売 | 任天堂 |
| 売上本数 | 約40万本 |
| 対応ハード | ファミリーコンピュータ |
| プロデューサー | 宮本茂 |
| ディレクター | 糸井重里 |
| サウンド | 鈴木慶一 / 田中宏和 |
【概要】
アメリカの田舎町を舞台にした、糸井重里氏プロデュースのRPG第1弾。電気スタンドや自動車が敵として襲ってくるユニークな世界観、フランクリンバッヂなどの現代的なアイテム、そして「8つのメロディ」を集めるという詩的な目的が特徴。広大なフィールドマップは当時としては画期的で、列車に乗って移動する旅情あふれる演出も話題を呼んだ。戦闘バランスは厳しめで、エンカウント率の高さなどFC特有の理不尽さもあるが、それを乗り越えた先のエンディングは感涙必至。
【あらすじ】
1900年代初頭、アメリカの田舎町マザーズデイで、ある夫婦が謎の失踪を遂げる。それから80年後、その夫婦のひ孫にあたる少年(主人公)の家で、家具や人形が勝手に動き出すポルターガイスト現象が発生した。それは地球上のあらゆるものを凶暴化させ、征服しようとする宇宙人「ギーグ」の仕業だった。少年は曽祖父の日記を頼りに、超能力(PSI)を使いながら旅に出る。ロイド、アナ、テディといった仲間たちと出会い、世界中に散らばる「8つのメロディ」を集め、ギーグの野望を阻止するためにホーリーローリーマウンテンを目指す。
1989年は昭和から平成へと元号が変わった節目の年。任天堂からは携帯ゲーム機『ゲームボーイ』が発売され、『テトリス』が大ブームとなっていた。家庭用ゲーム市場はファミコンが成熟期を迎え、『MOTHER』のような作家性の強い作品や、『魔界塔士Sa・Ga』のような斬新なRPGが生まれる土壌が整っていた時期でもある。バブル経済の絶頂期であり、エンタメ業界全体が活気に満ち溢れていた。
第2期:SFCでの完成と伝説(1994)
スーパーファミコンの全盛期である1994年。『MOTHER2』は発売された。「大人も子供も、おねーさんも。」というキャッチコピーと共に、木村拓哉氏が出演するCMが放映され、大きな話題となった。しかし、その開発は難航を極め、一時は開発中止の危機に瀕していた。そこへ救世主として現れたのが、当時HAL研究所の社長だった岩田聡氏である。「今あるものを直すなら2年かかります。いちから作り直していいなら、半年でやります」という伝説的な言葉通り、彼はプログラムを組み直し、本作を完成へと導いた。
ドラムロール式のHPカウンターによる緊張感あるバトル、斜め移動を取り入れた軽快な操作性、そしてドット絵の暖かみとサイケデリックな背景が融合したビジュアル。全てにおいて前作を凌駕する完成度で、シリーズの人気を不動のものにした。
No.2 MOTHER2 ギーグの逆襲

| 発売日 | 1994年8月27日 |
|---|---|
| 開発 | エイプ / HAL研究所 |
| 発売 | 任天堂 |
| 売上本数 | 約52万本 |
| 対応ハード | スーパーファミコン |
| プロデューサー | 岩田聡 |
| ディレクター | 糸井重里 |
| サウンド | 鈴木慶一 / 田中宏和 |
【概要】
SFCで発売されたシリーズ第2作。海外では『EarthBound』のタイトルで発売され、カルト的な人気を誇る。前作のシステムを踏襲しつつ、シンボルエンカウント(接触時)の導入や、HPがゼロになる前に回復すれば助かる「ドラムロールシステム」など、独自の進化を遂げた。「どせいさん」という謎の種族が初登場し、その独特のフォントとセリフ回しはシリーズの象徴となった。遊びやすさと物語の深みが両立しており、RPG初心者からマニアまで幅広く愛される作品。
【あらすじ】
イーグルランドのオネットに住む少年ネスは、家の近くに落ちた隕石を見に行く。そこから現れた未来の使者「ブンブーン」から、地球の未来が宇宙人ギーグによって支配されていること、そしてネスを含む3人の少年と1人の少女が世界を救う希望であることを告げられる。ネスは家族に別れを告げ、旅に出る。超能力少女ポーラ、天才少年ジェフ、武闘派のプーを仲間に加え、世界に点在する8つのパワースポット「おまえのばしょ」を巡り、音の石にメロディを記憶させていく。ギーグの影響で心を病んだ人々や、不気味な隣人ポーキーとの対立を経て、ネスたちは時空を超えた最終決戦へと向かう。
1994年は、年末にPlayStationとセガサターンが発売される「次世代機戦争」の前夜。スーパーファミコン市場は成熟しきっており、『ファイナルファンタジーVI』や『クロノ・トリガー』など、2Dドット絵の極致とも言える名作RPGがひしめき合っていた。その中で『MOTHER2』は、リアルな頭身や美麗なCGを追わず、あくまで独特のセンスとテキストで勝負し、独自の地位を築いた。
第3期:長い沈黙と奇妙で切ない完結(2006)
『MOTHER2』の発売後、NINTENDO64向けに『MOTHER3 豚王の最期』の開発が発表された。3Dで描かれる新たな冒険に期待が集まったが、開発は難航を極め、2000年に一度開発中止が発表される。ファンにとって絶望的なニュースだったが、糸井重里氏は諦めていなかった。
そして2006年、プラットフォームをゲームボーイアドバンスに移し、『MOTHER3』は奇跡の復活を遂げる。グラフィックは2Dドット絵に戻り、温かみのある世界観を維持しつつ、「サウンドバトル」というリズムアクション要素を導入。物語は「家族の愛」と「喪失」をテーマにしたシリアスかつ切ないものとなり、シリーズの完結編として賛否両論を巻き起こしながらも、深い感動を与えた。
No.3 MOTHER3

| 発売日 | 2006年4月20日 |
|---|---|
| 開発 | 東京糸井重里事務所 / HAL研究所 / ブラウニーブラウン |
| 発売 | 任天堂 |
| 売上本数 | 約40万本 |
| 対応ハード | ゲームボーイアドバンス |
| ディレクター | 糸井重里 |
| デザイナー | 今川伸浩 |
| サウンド | 酒井省吾 |
【概要】
12年の時を経て発売されたシリーズ完結編。「奇妙で、おもしろい。そして、せつない。」というキャッチコピー通り、前2作よりもシリアスで哲学的なテーマを扱う。全8章構成で、章ごとに操作キャラクターが変わる群像劇スタイルを採用。BGMのリズムに合わせてボタンを押すと連続攻撃ができる「サウンドバトル」システムが特徴。開発中止になったN64版の構想を引き継ぎつつ、携帯機向けに再構築された、糸井重里氏の集大成と言える作品。
【あらすじ】
「ノーウェア島」にあるタツマイリ村。双子の兄弟リュカとクラウス、そして母ヒナワは、祖父の家を訪れていた。しかし、謎の「ブタマスク軍団」が島に現れ、森に火を放ち、動物たちを改造し始める。その混乱の中で母ヒナワは命を落とし、兄クラウスは行方不明になってしまう。数年後、成長した気弱な少年リュカは、愛犬ボニーや泥棒ダスター、王女クマトラと共に、世界の破滅を招く「闇のドラゴン」の封印を解くための針を抜く旅に出る。ブタマスク軍団を率いる「仮面の男」の正体、そして明かされる世界の秘密。家族の愛と再生を描く物語は、静かな祈りと共に幕を閉じる。
2006年はニンテンドーDS Liteが発売され、社会現象的な品薄状態となっていた。『脳を鍛える大人のDSトレーニング』などが大ヒットし、ゲーム人口が拡大していた時期である。そんな中、前世代機であるGBAで発売された『MOTHER3』は、ハードの性能競争とは一線を画す「物語体験としてのゲーム」の価値を改めて提示した。多くのファンが、DSでGBAソフトを遊べる機能を使って本作をプレイした。
まとめ:終わらない「MOTHER」の旅
『MOTHER』シリーズは、わずか3作品で完結したにもかかわらず、その影響力は計り知れない。ありふれた日常が非日常へと変わるワクワク感、独特のセリフ回し、そして心を揺さぶる音楽。これらは『UNDERTALE』をはじめとする多くのインディーゲームクリエイターに多大な影響を与え、今なお「MOTHERライク」なゲームが生まれ続けている。
「ほぼ日」によるグッズ展開やイベントも盛況で、ゲームという枠を超えた「文化」として、これからも愛され続けていくだろう。